北村薫 『スキップ』

スキップ (新潮文庫)

スキップ (新潮文庫)

内容を簡単に説明すると、17歳の女子高生・真理子がある日目覚めるとそこは25年後の世界。真理子は夫と17歳の娘がいる高校の国語教師になっていた…、といった感じです。「時と人」三部作の第一作目となる作品。面白かった。

一瞬にして25年もの月日が流れてしまい、今まで当たり前のように存在していた母や父、そして自分の日常が無くなってしまったことに真理子はもちろん動揺するんだけど、その前半部分で描かれるどうしようもない現実がたまらなく切なくて泣ける。で、そこから真理子は現実を受け入れて先生という職業をまっとうしようとするのが立派だ。というか、立派すぎるのだ。いきなり口調まで変わってしまったように思えて、お前は本当にさっきまで女子高生だったのかと問い詰めたくなってしまった。昔の人はこの年齢でもしっかりしていたんだよ、という説明ではちょっと納得できないほどのいさましさである。

キリッとした姿勢で日常に向き合う真理子のキャラは著者の真骨頂なのかもしれないが、いささか無理があるような気がする。基本的にこのシリーズは時間の大切を教えてくれる作品群であるから、これもご多分に漏れず「過ぎ去った時間はもう決して戻らない。だから今を生きようぜ!」みたいなことが言いたいのだと思う。だから、きっとこの真理子は生きる人間の姿の理想なのだろう。

もちろん過去がどうだとかうじうじ言っている人間よりも、今を懸命に生きている人間のほうが輝いているのは当たり前のことだとは思うが、そんなことはいちいち言われるまでもなくこちとら承知済みである。そのどうしようもなさをどうやって乗り越えるのかが重要なのだが、こんなことを言っているうちは一生俺は理想に近づけないんだろうな!素敵な人生を送るためにも、これからは真理子を見習って生きようと思った…と綺麗事で締めてみる。無理だろうなぁ…。