伊坂幸太郎 『ゴールデンスランバー』

ゴールデンスランバー

ゴールデンスランバー

社会人になってからというもの、とんと本を読まなくなってしまったのですが、やはり好きな作家なので、一旦読み始めてしまうと手が止まらず一気に読了。この相変わらずの読みやすさと吸引力には「安定しているなぁ」と毎度の事ながら感心します。

話の中身自体は、ある男がよく分からないでっかい権力的なものからただ逃げるだけ。出だしの雰囲気がいつもと少し違ったので、「おっ。ついにいさか本気出したか?」ぐらいの気持ちで読んでいたものの、4部以降からはいつも通りになったんで安心したようなガッカリしたような気分。 などと思う俺は新年早々ワガママですか。

やっぱり、伊坂の作品の根底には「時の流れ」っていうものがいつもあって(今回でいえば、青柳の学生時代から繋がる数々の伏線)、『アヒルと鴨〜』も『砂漠』も『フィッシュストーリー』も、要は今と昔の物事が邂逅する切なさに溢れているからそこがすごく好きなんです自分は。 ホント伊坂はそういう基本的な切なさを分かっている人だといつも思っているので、だからもう皆が皆言っている良かったセリフなんか今更紹介しても意味がないんで、そういったところからいうと、

「小野君、青柳さんや森田さんの話をする時、いつも生き生きしてて、自分がサークルを引き継いで、うまく続けられなかったのを嘆いてました」

あたりがハイトライトだよもう俺としては。あと、サークル合宿でのシャンプーの話のくだりな!そこ言っちゃそりゃ切ないだろっていう禁じ手だよあれは。もうここまでくると、むしろ主題は「あのときには戻れない」ってことにしてもいいんじゃないかと思うぐらいです。

まぁそんな感じで、そのあたりを文字として表現して載せてくれれば満足っちゃ満足なんだけど、今回はそこに繋がるストーリーらしいストーリーが本筋の時間軸のほうにないから物足りないのかも。これ読んで、「管理社会って怖いわ!」って何か考えるようもんでもないと思うし。あと、「人は死ぬ」っていう面に関してもいつも結構意識している気がするんだけど、今回は結構ほったらかしだったんで、そこが少し残念。

それにしても、やっぱセリフがズルイ。くるか?そろそろくるか?って読者が期待している落としどころを当てることにかけてはこの人はなんかもう賞でもあげればいいんじゃなかろうか。結末自体は「あっ、そうやって終わっちゃうのか」って感じの終わり方だったけど。

そんな感じで、要はいつも通りの伊坂です。もうこのままこの我が道をいっちゃうのか、この力の込め具合をもっとシリアスに使うのか。どうなるのかは知らんけど、個人的には後者に期待。