高村薫 『李歐』

李歐 (講談社文庫)

李歐 (講談社文庫)

内容を簡単に説明すると、一人の青年と一人の殺し屋の青春物語です。ごめんちょっと要約しすぎたかも。どっちかっていうと、ハードボイルド寄りになるのかなぁこれは。まぁハードボイルドってなんなのかいまいち理解できてないけどな。

文章はそれほど固くはなくて、ちょうど良い感じです。でも、やはり描写はこれでもかってほどの細かさで、人間こんなにもいちいち物事を心の中で考えて生活してないだろ、と少し突っ込みたくもなるけど、やはりそこがとても好きです。そして、事実の叩き付け方が上手いというか。特に「守山工場」の章が逸脱で、主人公の少年時代がただひたすら淡々と述べられているだけなのに、どこか切なくなるのが不思議です。また、その章で出てくる「ピァオピァオリァンリァンア」という中国語は何故かとても魅力的なものに思えて、思わず呟いてしまうこと必至。

あとはまぁ、時の流れはやはり切ないなぁと。出てきた登場人物もいずれ死んでいなくなり、主人公も年をとり、子供も生まれたりして。そこで「三十年前の君を見たんかと思うた…」なんてセリフが出てきた日にゃあグッと来ないわけにはいかないというもんだ。そんな時の流れに物語が絡むわけだから、面白くないわけがない。拳銃の重々しさと、満開の桜の鮮やかさが印象深い小説です。