貫井徳郎 『殺人症候群』

殺人症候群 (双葉文庫)

殺人症候群 (双葉文庫)

「症候群シリーズ」の最終作。内容を簡単に説明すると、心臓病の息子のために若者の命を奪う看護婦、被害者の遺族に代わって復習を果たそうとする職業殺人者、そしてそれを追う警視庁内の特殊チームの三つ巴!といった感じ。

遺族の復讐というと、少し前に読んだ東野圭吾の「さまよう刃」が思い浮かぶわけですが、テーマとしてはこちらのほうがより深く描かれているように思います。息子の心臓移植のためにドナーカードを持つ若者を次々と殺す母という読者が思わず同情してしまうような設定に、それを返り討ちにして酷い仕打ちをする青年というエピソードを絡めてくるところでは、どちらも殺人という行為には変わりがないのだと叩き付けられたような気がして少しハッとしました。

「あんたらだっておれを殺そうとしたじゃないか。おれがやったことと、何が違うって言うんだよ」という青年のセリフに象徴されるように、そこに違いはなく、結局は立場によって考え方がコロコロと変わってしまうので、何が正しくて何が悪いのかというのは物凄く曖昧なことなのだなぁと改めて実感。

そうは言っても、最後の倉持のエピソードを読むと、実際にこういう人もいるのだろうな、と少し複雑な気分にもなるんだよね。まぁ毎度毎度言っていることではあるけど、こうやって答えの出ない事柄について色々と考えることは大事だとは分かってるんだけど、考えたからといって何になるんだろうという気もしたりするので、相変わらずよく分からない。自分へと還元できれば、それはそれでいいのかもしれんが。

だから、こういったものは単純に面白いことも重要なんじゃないかな、と。そういう点でいうと、この作品は単純に小説としての面白みがちょっと足りないように思います。前半から中盤にかけて、あまりに淡々としているというか、ダラダラしている感が否めないので読むのに苦労してしまいました。

貫井はいわゆる"らしさ"というものがあまり感じられず、いま一歩抜け出せずにちょっとしたB級感が漂っている気がするので、頑張ってほしいと思います!と偉そうに締めとく。それにしても、この著者は「胸の裡」っていう言葉が好きだね。