重松清 『ビフォア・ラン』

ビフォア・ラン (幻冬舎文庫)

ビフォア・ラン (幻冬舎文庫)

授業で知った「トラウマ」という言葉に心を奪われ、「今の自分に足りないものはこれだ」と思い込んだ平凡な高校生・優は、「トラウマづくり」のために、まだ死んでもいない同級生の墓をつくった。ある日、その同級生まゆみは彼の前に現れ、あらぬ記憶を口走ったばかりか恋人宣言してしまう―。そんな感じの内容です。

解説にも書いてあるように、デビューのときからホント重松だったんだなという印象。思い出すだけで身の毛もよだつような、あの受験期特有の正体不明なモヤモヤ感がスゴイよく出てる気がする。なんつーか、将来のことだの、その先の考えなくてもいい未来のことだの、色々考えてグチャグチャになっちゃうあの感じ。

でも、「舞姫通信」を読んだときも思ったけど、この辺の初期の作品ってすげー暗いな。いや、この作品が暗いというよりは、その後の作品はこの「暗さ」を上手く隠して書かれたと言ったほうが正しいのかも。そして、ラストで希望の光が少しだけ見えてくるっていうあのお決まりの型ができたんじゃなかろうか。このデビュー作はまだ隠しきれてないから暗いんだよきっと。ごめん、よく分からんわ。

まぁあとは、中盤がややダレるところも「舞姫通信」と似ているように思いました。最後にとても共感した部分を引用して締めさせていただきます!

「人気や尊敬や信頼は、友達を生む要素にはならない。ぼくは、かなり強い確信を持って思っている。一人の人間と一人の人間を結びつけるのは、共通の趣味だったり、思い出すのも恥ずかしい失敗だったり、つまらない冗談だったり、三日たてば原因を忘れてしまうような喧嘩だったり、一人では背負いきれない退屈さだったりするのだ」