東野圭吾 『殺人の門』

殺人の門 (角川文庫)

殺人の門 (角川文庫)

「あいつを殺したい。奴のせいで、私の人生はいつも狂わされてきた。でも、私には殺すことができない。殺人者になるために、私には一体何が欠けているのだろうか。心の闇に潜む殺人願望を克明に描く、衝撃の問題作!」といった内容。

基本的には主人公である田島の人生が淡々と描かれています。この田島が倉持という男になんやかんやで騙されたりしてヒドイ目に合わされるわけですが、まぁ読んだ人がみんな思っているように、とにかこのく主人公がバカでね!なんか読んでいると「正直者がバカを見る」といった典型例を見せられているようで心苦しいものがあります。

で、たぶん筆者が一番言いたかったところは、動機の部分なのだろうなぁと個人的には思いました。最後のほうに「田島さん、動機さえあれば殺人が起こるというわけではないんですよ」という刑事のセリフから始まるくだりがあって、そこに「小説ではとってつけたような動機が描かれるが、殺人の動機というものは、実際はそんな簡単に文字にできるようなものではないのでは」というような筆者の思いをなんとなく感じます。東野作品の中には、殺人を犯した人物の動機についてとことん追究した『悪意』という作品を書いたことがあって、この作品のテーマはそれに近いものなのかもしれません。

まぁそんな感じで、話自体は決して目新しいものではないんですけど、やっぱ驚くほど文章が読みやすいです。久しぶりに読むとなおさらそう思います。話の先も大体読めてしまうのですが、作中のさり気ない伏線によって読まされているといったほうが正しいのかもしれません。分かっちゃいるのに先が気になってしまい、600ページもある作品なのにサクサク読み進むことができます。

ただ、読んでいる最中はすごく面白いのに、相変わらず結末があっけないのが残念。その点でいうと、やはり『容疑者Xの献身』は頭ひとつ抜けた作品であったな、などと思いました。