伊坂幸太郎 『フィッシュストーリー』

フィッシュストーリー

フィッシュストーリー

いつも通りの小気味良い文章で綴られる短編が四つ収録されています。

どれもが相変わらずの爽やかな読後感で、特に書き下ろしの「ポテチ」はまぁベタっちゃベタなんだけど、やっぱりいいですね。「たかだかホームランで、人が救われるのか?」と言い訳するようなことをしておいて、あのオチはズルイです。作中で黒澤が言っているように、「だから、どうした?」と思うことは俺自身もよくあるけれども……だから、まあアレだ。世の中「たかがホームラン、されどホームラン」であるのだと感じさせてくれる最後の大西のセリフは素敵だと思います。今村みたいにひょうひょうと強く生きていきたいものですね。

表題作の「フィッシュストーリー」はある意味輪廻転生的な、物事は回りに回って巡っていくということをロマンチックに描いていて、「こんなことあったら素敵だな」と思わず感じてしまうほど。ちなみに、他の作品で出てきたキャラが登場するという、筆者の作品ではおなじみの「作品同士のリンク」って、小説を読み終わったあとに抱く「あのキャラは今ごろ何してるんだろうなぁ」などといった読者側の想いにすごく寄ってくれているサービスだと個人的には思うんですね。これのおかげで、表題作は二つの側面から人の繋がりの妙さみたいなものが伝わる仕組みになっていて、筆者の一貫したテーマも感じられます。

「動物園のエンジン」はなんだか滑稽というかよく分からない話なんだけれども、人間のまっすぐな行動に伴う輝きを端的に表してくれているような話で、短いしとてもシンプルなんだけど、最後はかなりグッときました。「サクリファイス」は……いまいちどんなことが言いたいのかが分からない。政治のことやなんやらを小規模に例えて書いたのかな。

こんな感じで普通に良い作品なのですが、そろそろ「普通に」ではなくて、「すげえ!」と言いたくなる平均以上の作品も読みたいっていうのがみんなの願いじゃないでしょうか。でも、今のスタイルだとそういう物凄い熱量を持ったような作品って書きにくいのかもなぁという気もする。とりあえず、次作品にも期待してます!