重松清 『哀愁的東京』

哀愁的東京 (角川文庫)

哀愁的東京 (角川文庫)

なんだか初期の重松っぽい暗さがあるなぁという印象。ただ編集者シマちゃんのキャラなんかはいつも通りの「いかにも」な感じだし、それでいて主人公は通り一遍等の展開を否定するという、そのごちゃまぜ具合は相変わらず。さすがに「最後に絵本を完成させる」っていう筋書きは真正面にこなすかと思ったけど、それすらちょっと違って笑った。

本当の意味で心に染み入るような話が少なかった気がしないでもないが、それはたぶん自分自身の年齢の問題かもしれない。ただ、「鋼のように、ガラスの如く」に出てきた「歳をとることのかなわないあかねちゃんと、今日にとどまることのできないあかね」という表現はとても心に残った。生きている者の傲慢かもしれないが、どちらも切なく思える。

そして、最後に子どもの声を背にした主人公が東京タワーで泣く場面。同義かは定かではないけど、気持ちが分かることもあって、好きです。