高村薫 『照柿』

照柿

照柿

日高村薫について書いたので、ついでにこれの感想も書いてしまおうと思います。「野田達夫、35歳。17年働き続けてきた平凡な人生に、何が起こったのか。達夫と逢引する女、佐野美保子はほんとうに亭主を刺したのか。美保子と出会った瞬間、一目惚れの地獄に落ちた刑事合田雄一郎はあてもなく街へさまよい出る。照柿の色に染まった、男2人と女1人の魂の炉」といった内容です。

読んだのは半年ぐらい前なので正直いって内容をあまり覚えていないんですけど、とにかく暑苦しいの一言に尽きます。そして、読み終わった頭に残っているイメージは、圧倒的な夕日のようなオレンジ色。黒々とした表紙からは想像ができないほどの強烈な印象です。それこそ内容忘れたって覚えてるんだから(笑。そういう意味で、このタイトルは全く持って正しいと言えます。

この作品に出てくる合田の幼馴染である野田達夫は工場の熱処理部門で働いていて、全体を通じて頻繁に出てくる工場の作業の様子や噴き出すバーナーの炎などの描写を読んでいると、それらが本当にジリジリと頭に焼き付けられていくかのような感触すら覚えます。その場にいると錯覚してしまいそうなその描写は、とにかくこれでもかというぐらいねちっこい文章なので、合わない人にとっては何ページか読んだだけでひたすらウンザリすること請け合いです。

でも!そこを乗り越えたところに感動が待っているわけですよ。少なくとも俺は何回か涙ぐんだ…覚えもありますし。終盤に向かうにつれ工場での労働、様々な人間関係、不眠症などによって野田達夫が追い詰められていき、それと共に文章の帯びる熱の温度も上がっていき、最後にはマラソンを完走したかのような達成感が待ち受けています。そう!だから高村薫の作品を読むということはランナーズ・ハイに近い魅力があるのかも(笑。いや、でも癖になったら単純に面白いんですよねぇ。嫌いな人にとってはただの地獄だと思いますが。

ちなみに、この作品でおなじみ合田雄一郎は一人の女性に惚れちゃった挙句、自分の立場を利用してなんかかんやと工作までしてしまったりします。だから、レディ・ジョーカーでは合田は本庁にいないわけです。一応三部作なので、レディ・ジョーカーを読む前にこれを読んで一汗かくことをオススメします。