森 博嗣 『ナ・バ・テア』

ナ・バ・テア

ナ・バ・テア

スカイ・クロラ』の続編。続編と言っても、今回の作品の主人公はクサナギなので、時系列的にはこちらのほうが先ですけどね。読み進めるにつれて前作へと繋がる部分が多々出てきて、あぁそうだったのかと読みながら何回も納得してました。しかし、クサナギの一人称が「僕」から「私」へと移行した理由はいまだに分からず。意外と何回も読まないと消化できない作品なのかもしれません。

内容の感じとしては、装丁の「青」と「オレンジ」の対比にも表れているように、こちらのほうが若干感情的な表現が多いような気がします。しょっぱなから「ちきしょう!」なんていうエクステンションマーク付きのセリフとか出てきたしね。

でも、基本の枠組み自体は全く同じなので、すぐにその世界観に没頭できるのが嬉しいです。読んでいるときは、頭の中に前回思い描いたような基地のイメージもちゃんと出てきて、「あぁ意外と俺も想像力を使いながら読んでいるんだなぁ」などと実感したりもして。まぁ同じ基地だった感も否めないけど。

それにしても、永遠に生き続けるという"キルドレ"を通して、この著者は何が言いたかったんだろう。特に言いたいことはなかった…わけないもんな。永遠に生きられると言っても、自ら命を絶とうとする人もいれば、戦闘によって命を無くす人もいる。結局は死ぬのが人間だってことだろうか。はたまた死を恐れるなという単純なメッセージか。

こんな風にどうとでも解釈はできると思うんだけど、自分がいつか死ぬなんて考えたこともなかった子供の頃の人間は、言ってみれば永遠に生き続ける生き物だったのかもしれない、と目次の前に載っている文章を読んでふと思ったりしました。それが一番言いたかったことのような気がしてなりません。そして、この一番初めに載っている文章が自分も最高に好きだったりもします。

まぁそんな訳の分からない深読みをせずとも、ここに書かれている言葉を噛み締める行為が気持ち良いことは確かです。それは例えるならば、まるで食事をしているときのような幸福な気分。いくつも気に入った言葉があったはずなのに、読み終わったあとには「良かった」という気持ちしか残っていなくて、今はとても損をした気がしています。いつか本の一字一句を全て覚えてみたいもんだ。