伊坂幸太郎 『魔王』

魔王

魔王

「未来にあるのは、青空なのか、荒野なのか――。政治家の映るテレビ画面の前で目を充血させ、必死に念を送る兄。山の中で一日中、呼吸だけを感じながら鳥の出現を待つ弟。人々の心をわし掴みにする若き政治家が、日本に選択を迫る時、長い考察の果てに、兄は答を導き出し、弟の直感と呼応する。世の中の流れに立ち向かおうとした兄弟の物語」といった内容である伊坂の新作です。

うーん、伊坂を読んだあと、素直に面白いと言えないのは今回が初めてだ。よく分からない作品だなぁというのが正直な感想です。なんか兄貴は「考えろ考えろ」とかいって必死で、超能力だの、ムッソリーニだの色々出てきてたあげく、最後はあの終わり方ですよ?分かっていたとはいえ、ちょっと不気味すぎるよ!

それで、考えてるのか考えていないのかよく分からない弟は猛禽類の定点調査なんてものをしながら、「何か、こうしてれば世界は平和なんじゃないかなあ、って思うんだ」とつぶやく。こういうぼやーっとした類の気持ちよく分かる!と読みながら思いました。この部分、優雅に飛ぶオオタカの様子とあいまって好きです。皆こうしてりゃいいのにというか、それこそ「これで充分かも、私は思う」だ。

少し話はズレるけど、結局自分の周りは平和だもんなぁ。みんな考えたつもりになるばかり。だからこその「考えろ考えろ」なんだろうけど、それがどうにもわざとらしい気がする。それに、そんなこたぁ声高に伝えられなくたってみんな分かってるんじゃないかね。読み終わったあと、自然に考えさせて欲しかったなぁ、と。

でも、言葉を喋れるようになった猿の話や富士山の話とかはいつもの伊坂っぽくて良かったです。特に宮沢賢治の詩は面白かった。あんな詩もあるんだねぇ。

参考URL
Yahoo!ブックス - インタビュー - 伊坂幸太郎
http://books.yahoo.co.jp/interview/detail/31608523/01.html
宮沢賢治 「眼にて云ふ」
http://www.kenji.ne.jp/why/sonota/02menite.html