重松清 『卒業』

卒業

卒業

表題作の「卒業」を含め、四つの短編を収録。個人的には最後まで教師として生きた父親の姿を描いた「あおげば尊し」と、息子と義母の複雑な関係について書かれた「追伸」がとても良かった。「卒業」に出てくる女の子が、いつも通り「今っぽさ」を変に強調しすぎたようなキャラになっているが、まぁそこはご愛嬌。

重松清の作品の根底には「時の流れ」と「死」が横たわっていて、いつも変わらないその存在にはとても安心させられる。「お涙頂戴ものは苦手だ」などと思う人は世の中にはたくさんいるのだろうけど、そんなことを言っている人もいつかは絶対死ぬわけで、重松は「死」というものを、言ってみれば恋や愛より人にとって身近なテーマを当たり前に、そして真摯に描こうとしているだけなのである。

もちろん、重松自身は「死とは何なのだ」という、あまたの哲学者が長年唸ってきたような問いに対して答えなど持っておらず、小説の中にも答えなど全くない。登場人物たちも時の流れや身の回りの出来事に翻弄されながら、焦ったり悩んだりしつつ、私たちと同じように暮らしているだけだ。けれど、懸命に考え、生きている人たちのエピソードを叩き付けられたらどうしたって涙が出てくるし、自然と考えせられるというものだろう。それに充分な言葉が作中には溢れている。

「死ぬ」とは、「いなくなる」ことなのか?「消える」ことなのか?なにかが違う。そうじゃない、と心の片隅でつぶやいている自分がいる。じゃあ、なんなんだ?

ホントなんなのだろう、とつくづく思う。私たちがふとしたときに思うようなことを絶妙な言葉で代弁してくれていて、それを読んだ私たちは、答えは得られずとも共に考えることはできる。そういえば、『その日のまえに』で重松は「考えることが答えなんだ」なんてことを書いていた。そこに意味などないのかもしれないけれども、明日からの日々をほんの少しだけ力強く生きていけるような気にさせてくれる作品。