遠藤周作 『海と毒薬』

海と毒薬 (新潮文庫)

海と毒薬 (新潮文庫)

戦時中、九州の病院で実際に起きた米軍捕虜の生体解剖事件を題材に書かれた小説。ページ数は少ないのでサクっと読めるが、内容はズッシリとして重い。

昔の小説特有のものなのか、どこか感情が感じられず、無機質な文章が続く。それと重い内容とが相乗効果になり、何か得体の知れぬ怖さが迫ってくる。 極端に言えば、少し胸クソ悪くなってしまうほどである。 読み終わったあとは、世間や社会の罰に対してではなく、自分の良心に対して 恐れを抱いたことが私にはあっただろうか、と自分自身のことについてぼんやり考えてしまう。

本には読むと賢くなったように思えてしまう力があるが、これはそういったものではない。駄作だ、というわけではないのだけれども、いわゆる面白い小説、良い小説ではないと思う。批評して分かった気になってはいけない気がする作品。